【名(な)を盜むは貨(カ)を盜むに如(し)かず】、と読みまして、実績もないのに世間の評判を善くして、名誉を得ようとするのは、財産・財宝を盗むより悪いことだ、という意味です。
出典は『荀子』不苟篇第三です。
人之所惡者、吾亦惡之。
人の惡む所の者は、吾も亦之を惡む。
他人の悪むものは、自分もまたこれを惡むのである。
夫富貴者、則類傲之、
夫(か)の富貴なる者は、則ち類(さから)いて之を傲(おご)り、
あの富貴な者には、かえってこれに逆らっておごりたかぶり、
夫貧賤者、則求柔之。
夫の貧賤なる者は、則ち求(つと)めて之を柔(やす)んず。
あの貧賤な者には、務めてこれに優しくして安心させる。
是非仁人之情、
是れ仁人の情に非ざるなり、
しかしこれはもとより仁の人の本来の性情ではなく、
是姦人將以盜名於晻世者、
是れ姦人の將(まさ)に以て名を晻世(アンセイ)に盜まんとする者なり、
このような態度は、心の拗(ねじ)けた人が、乱世に世間の評判を得ようとするに過ぎないのであって、
險莫大焉。
險なること焉(これ)より大なるは莫し。
陰険な点ではこれより甚だしいものはない。
故曰、盜名不如盜貨。
故(コ)に曰く、名を盜むは貨を盜むに如かず、と。
古語にも、名を盗むは財貨を盗むより劣っている、とある。