郡山市震災後子どもの心のケアプロジェクト（郡山市、郡山市教育委員会、郡山医師会）は１０、１１の両日、１周年記念フォーラムを郡山女子大記念講堂で開いた。
　プロジェクトは、震災後における子どもたちの心のケアを、絵本の読み聞かせや遊び、それに医療面から考えようという取り組み。
　初日は原正夫市長が開会あいさつし、プロジェクトマネージャーの菊池信太郎医師、菊池辰夫郡山医師会長、箭内研一郡山市こども部長、岡崎強市教委学校教育部長が支援活動や取り組みについて報告した。
　識者として招かれた、ノンフィクション作家で評論家の柳田邦男さんは「悲しみと生きなおす力」「絵本の力」という演題で２日間講演した。
　柳田さんは、幼いうちに親密な人との死別で喪失感を味わった人間が、どのようなプロセスを経て再生していくのかを、弟を亡くしたある少年を例に紹介した。「受け入れがたい現実の中で大きな役割を果たしたのが絵本であり、子どもは絵本の内容だけでなく、本を読んでくれている親が自分に本気で向き合っているかも見ている。親も子どもによって育てられている」と述べた。
　さらに「子どものころの感動の原体験はとても大切。生涯にわたりその体験が生きていく力となって自分の中に存在するようになる。その中で絵本は感動をもたらす素晴らしいものである。苦しい時こそ、心の、感動のプレゼントが自己肯定的であり、未来を見つめることのできる人を育てる。さまざまな体験の中で『悲しいけれど、私は幸せ』と言える肯定感をもたらすのは、愛である」と語った。
　柳田氏さんは都内で、「絵本を読んで感動したら柳田先生に手紙を書こう」活動に取り組んでおり、子どもたちから年６００通に及ぶ手紙を受け取っている。こうした取り組みの中で、「素の子どもたちの心」に触れているという。

　また、慶應大医学部小児科講師の渡辺久子さんは「子どもと寄り添い子どもと生きる」と題して講演。赤ちゃんの出すメッセージについての説明の中で、「胎内にいた時の記憶が感覚体験として身体に残っていると言われている。母親の受けたダメージを胎内で体験すると大人になってから発症すると言われているが、周囲の温かさが体験を温かく包むようになり、羊水のような役割を果たしていく」と述べた。
　さらに、「日本人は深い個人主義と、周囲との共生とも言うべきものを併せ持っている。それが本物の豊かな個人主義となり、自分の命は自分で守ることや、生ききることにつながっている」としながらも「近ごろは、個人で生きているだけで周囲から守られていることを知らない。子どもが親を心配しなければならなくなり、守ってくれるかどうかも心配している。なけなしの自分を捧げている子どもに、大人たちは答えているだろうか」と問い掛けた。
　最後に「（震災により）郡山の（人たちの）魂は傷ついていないし、大丈夫。しかし、真面目すぎて自己犠牲的にならないよう気を付けるべき。日本人が美化され続けていることも気になっている。例えば、桃太郎のようにみんなを引き込み、その協力を得て生きていきていきましょう」と結んだ。
　２日間のフォーラムでは、読み聞かせグループによる活動報告と絵本の読み聞かせ、甲状腺の病気・健診セミナー、心のケア活動とその成果・課題をテーマにしたシンポジウム、遊びを通した体のケアに関する講演などがあった。

　　　　（2012・3・13）