～パリの人々に希望を与えたうつくしまの空～ジャポニスム2018と私が愛する福島の大空、そして、そのパリにおける招待展覧会
 

◆3.11をきっかけに、福島の空を現代アートに
　うつくしまの空は美しい。
　詩人、高村光太郎が、愛妻、智恵子の言葉を借りて謳ったように、その、あたかも天空に暮らす神たちが虹色の絵筆を自由闊達にふるうかのような華麗で雄大な表情を知れば、きっと誰もが魅了されるだろう。福島の愛称であるうつくしまには、多くの意味と由来があると思うのだが、その中には、きっと、世界においても比類ない豊かな美しさを抱く大空の魅力もが含まれていたに違いない。
　あるとき、訳あって住み慣れた首都圏から移住した私は、まさにそのように感じないではいられない一人であった。都会のビルの谷間から覗くわずかな空の慎ましい姿に慣れていた瞳には、アトリエの天窓や散歩の頭上を流れゆく雲たちが、この世のものとは思えないほどゴージャスで美麗な不思議な生命体に見えた。そして、この空をいつか現代アートの作品にしよう、と密かに心に決めた。
　しかし、その日が、3.11と福島第一原発事故をきっかけに訪れるとは、その頃は夢にも思わないでいた。
　震災と原発事故が起きた日、私は仕事で東京に滞在していた。予定では3月11日に帰宅する運びであったのだが、奇遇にも思わぬ用事がその前日の夜に発生し、帰宅日が延びることとなった。
　人生は、時に想像がつかない未知なるドラマを演じることを、突然のように私たちの日常に期待する。
　このささやかな用事が生じなければ、その後の私の人生は、今とは違ったものになっただろう。
　まるで見えない神の手に導かれたかのように、3.11が起こるその直前にあたかも自然避難した形で東京に二か月間滞在して帰宅した私を、福島が背負った現実が待ち受けていた。それは、今思い越しても信じがたいほど心が痛む壮絶な悲劇であり、そして、その悲劇の波間を、数えきれない人々の苦悩が、喪失が、不安が、孤独が、漂っているように見えた。
　私は、この、これまでとは違う世界の住みびとの一人として、自分が何をすべきかを考え、そして実行に移した。長年心の引き出しに眠らせていた福島の空を作品にするというアイディアを現実のものにするのは、今このときである、との判断に基づく一人のアーティストとしての戦いを開始したのだ。
 
◆空は心と心をつないでいる
　すべての人々の頭上に等しく広がる空という名の生命の大宇宙は、人を選ばない。人種や国境を超えて、思いをつなぎ、文化をつなぎ、心と心をつないでいる。
　この悠久の大空をモティーフに作品を作れば、被災した人々の心に寄り添いながら、世界の多くの人々に、命を尊び、平和と、母なる惑星、地球を愛することの大切さを伝える希望のメッセージを届けることができるのではないか。そして、福島の失われた誇りをとり戻し、たとえわずかでも「心の復興」、「夢の復興」、「希望の復興」に役立てられるのではないか。この祈りとも言える飽くなき情熱を携えながら、今尚、私は、夜明け前から日没までの福島の空の表情を追い続けている。
　② ③ ④ ⑤に続く