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孤高のランナー円谷選手を語る 須賀川でオリンピックメモリアルシンポ

昭和を駆け抜けた孤高のランナー故円谷幸吉選手=福島県須賀川市出身=。1964年東京オリンピックの国立競技場に日本選手として唯一日の丸を掲げたマラソン銅メダリストだ。競技場トラックのゴール寸前で後続を振り返ることなく、最後は倒れ込むようにゴールインしたシーンはあまりにも有名。「男は後ろを振り向いてはいけない」という父親の戒めでもあった。
 円谷選手は東京五輪マラソン3位だけでなく、1万㍍でも6位入賞を果たしている。不振にあえいだ日本陸上界でひとり気を吐く活躍だった。国民の期待を一身に背負い、メキシコオリンピック前の4年後に遺書を残して自らの命を絶った。27歳だった。
 
 2006(平成18)年、実家の円谷家から円谷選手の遺品が須賀川市に寄贈された。オリンピックの賞状、銅メダル、トロフィーをはじめ、ゼッケン「77」のユニホーム、シューズ、ゴール直後に取った足形など2千点余りに上った。この中には、家族思いの幸吉が肉親にあてた遺書も含まれた。遺品の数々は須賀川アリーナ内の円谷幸吉メモリアルホールで公開展示されている。
 したためられた遺書には「父上様、母上様、三日とろろ美味しうございました」に始まり、「幸吉は父母上様の側で暮らしとうございました。…幸吉はもうすっかり疲れ切ってしまって走れません」と、家族思いの幸吉が家族らにあてた思いがひしひしと伝わる。川端康成は「相手ごと食べものごとに繰り返される〈美味しゆうございました〉と言う、ありきたりの言葉が純な命を生き、美しくて、まことで、かなしいひびきだ」と語り、「千万言も尽くせぬ哀切である」と評した。
 
 先の東京五輪から52年。リオデジャネイロを経て4年後には再び東京でオリンピックが開かれるが、「1964 東京発、2020 TOKYO経由、そして未来へ」と銘打った「円谷幸吉とオリンピックメモリアルシンポジウム」(須賀川市主催)が3月19日、須賀川市文化センターであった。
 パネルディスカッションでのパネラーは、円谷選手の僚友でメキシコ五輪銀メダリストの君原健二さん、日本長距離界をリードした瀬古利彦さん(DeNAランニングクラブ総監督)、バルセロナ五輪銀メダリスト・アトランタ五輪銅メダリストの有森裕子さんのいずれもオリンピアン。それに円谷選手が配属された自衛隊駐屯地で一緒にランニングのトレーニングを始めたという福島陸上協議協会顧問の齊藤章司さんも参加した。テレビ朝日スポーツコメンテーターで順天堂大客員教授の宮嶋泰子さんがコーディネーターを務めた。
 パネラーからは「円谷選手はスピードマラソンの先駆けにもなった」として、「トラックとロードに棲み分けされていた当時、トラックや駅伝の選手がロードに進出し、マラソンの近代化もつながった」とその功績を評価した。
 これまで隠れていたエピソードも語られた。オリンピック出場にあたり、付き合っていた意中の女性がいても結婚できなかったという事実も明らかにされた。それでも婚約、挙式の準備は進められていたという。相手は恋愛していた同僚らしいが、何も知らない君原さんは「遠征先の香港で(円谷さんが)ダイヤの指輪を買っているのを見て驚いた」と明かした。
 とにかく当時は、「五輪に出場する選手の恋愛は禁止。結婚することさえもとんでもない」という周りの風潮だったことも話した。
 自衛隊で練習に付き添った齊藤さんは、日の丸を背負って孤独にさいなまれていた円谷選手を振り返り、「信頼していたコーチの転勤に加え、アキレス腱と腰の故障と、孤独の中での葛藤があった。だれにも止められなかったのでは…」と話した。
 孤高のランナー円谷選手を介し、「風を見て、トップを走ることは孤独の存在」という総括で締めた。
 パネルディスカッションに先立ち、瀬古さんが「心で走る」を演題に基調講演した。
                       (2016・3・20)


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